フランスにはなぜ蒸留酒の博物館がないのか
フランスは1930年代から自国のオー・ド・ヴィー(蒸留酒)を法によって保護してきた。この国には、フランス革命以前に創業したメゾン(酒造会社)があり、ラムとしては世界で唯一の原産地統制呼称(AOC)があり、他に並ぶもののない多様なフルーツスピリッツがある。それでも、この文化遺産をテーマとする国立博物館はひとつもない。この不在には説明が必要である。
各地で記録されながら、どこでも語られてこなかった文化遺産
フランスには、ひとつの蒸留酒の物語を伝える場所が何十もある。コニャック(Cognac)のメゾンは貯蔵庫(シェ)を公開し、アンティル諸島の蒸留所はすぐれた博物館的空間を設け、地域のエコミュゼは蒸留器や道具類を保存している。これらの場所は貴重であり、SpiLiはそれらに取って代わるつもりはまったくない。
しかし、これらには共通点がある。語るのはひとつの製品、ひとつの地域、しばしばひとつのメゾンである。全体の問いを引き受ける場所はない。蒸留は人間の社会に何をもたらしたのか。錬金術の実験室で生まれた同じ技術が、なぜスコットランドではウイスキーを、中国では白酒(バイジュウ)を、メキシコではメスカル(mezcal)を、ノルマンディーではカルヴァドス(Calvados)を生んだのか。欠けているのは、もうひとつの博物館ではない。いくつもの糸がひとつに結び合わされる場所である。
ワインは2016年にシテ・デュ・ヴァン(La Cité du Vin)を得た。蒸留酒は、そのすべてをまとめて語る場所をいまも待っている。
第一の理由:長く「ふさわしくない」とされてきた文化遺産
蒸留酒の歴史は、アルコール依存症、懲罰的な課税、公衆衛生政策の歴史と切り離せない。フランスでは1915年のアブサン(absinthe)禁止が、給水器(ファウンテン)、スプーン、ポスター、製造の技といった物質文化の一領域をまるごと一挙に消し去り、その名誉回復は2011年まで待たねばならなかった。ほぼ1世紀のあいだ、ひとつのカテゴリー全体が、文字どおり公に語ることのできないものだったのである。
この気まずさは痕跡を残した。蒸留酒の文化遺産は長いあいだ、文化的というより産業的なもの、文明に関わるというより商業的なものとみなされてきた。ワインが文学と美食の世界で確立した威信を享受していたのに対し、オー・ド・ヴィーは疑わしいものであり続けた。
第二の理由:ためらわせる法的枠組み
1991年1月10日の法律、いわゆるエヴァン法(loi Évin)は、アルコール飲料に関するコミュニケーションを厳しく規制している。この法律は文化的なプロジェクトを禁じてはいない。しかし、制度の側に慎重さを長く根づかせた。蒸留酒をテーマとする公共の場をつくるには、製品の宣伝ではなく文化の記録であることを、たえず証明しつづけなければならない。
これは正当な要請であり、SpiLiはそれを全面的に引き受けている。そのプロジェクトは文化・文化遺産・教育のためのものであり、いかなるブランドも推奨せず、商業的な比較も行わず、責任ある飲酒への意識づけを語りそのものに組み込んでいる。とはいえ、この要請が多くの試みを思いとどまらせてきたことも認めなければならない。
第三の理由:カテゴリーごとに組織された業界
フランスの蒸留酒業界は、製品ごとの業種間団体(アンテルプロフェッション)によって構成されている。コニャックはコニャック、アルマニャック(Armagnac)はアルマニャック、ラムはまた別に、という具合である。原産地呼称を守るうえでは有効なこの組織のあり方は、横断的なプロジェクトの担い手をおのずから生み出すことはない。各主体には自らのカテゴリーを価値づける利益があり、全体を語る任を負う者はいない。
したがって、蒸留酒の博物館は、ひとつのメゾンからも、ひとつの業種間団体からも生まれえなかった。独立したプロジェクトから生まれる必要があった。それこそがSpiLiの占める立場であり、SpiLiの編集上の独立性が定款に明記されている理由である。
なぜいまなのか
三つの変化が、いまを好機としている。
消費が減るなかで、文化的な関心は高まっている。フランス人が飲む蒸留酒の量は10年前より少ないが、蒸留酒への関心はむしろ強まっている。SOWINE/Dynataのバロメーター調査によれば、2025年には41%が関心があると答え、前年から3ポイント上昇した。飲む量は減り、理解したいという思いは増している。それはまさに博物館の来館者の定義である。
若い世代は文化から入ってくる。18〜25歳では半数以上がノンアルコールまたは低アルコールの飲料を飲んでおり、カクテルはいまや彼らの好む飲み物のひとつに数えられる。彼らと蒸留酒の世界との関わりは、製品そのものよりも、物語、美意識、歴史を通じたものである。博物館は、まさに彼らに語りかける場である。
物質の記憶が失われつつある。蒸留所がひとつ閉じるたびに、その帳簿、道具、写真も失われる。相続があるたびに、ひとつのコレクションが散逸する。蒸留酒の文化遺産はゆっくりと侵食されるのではない。競売で、あるいは廃棄物として、ひとまとまりずつ消えていく。収集は急を要する。
私たちの提案
SpiLiは、蒸留酒とリキュールの文化全体をテーマとする世界初の博物館をめざすプロジェクトである。段階的に展開し、2028年にイル=ド=フランスでの巡回展、2029年から国際巡回展、2032年にパリでの常設の博物館を予定している。
しかし、SpiLiはすでにデジタルのかたちで始まっている。蒸留酒のアトラス(プロジェクトの共同型資料データベース)は公開中であり、カテゴリー、テロワール、地理的表示(GI)、原料、蒸留の年表を収めている。建物に先立って開かれた、博物館の最初の展示室である。
このプロジェクトに関心をもつ人には、いくつかの関わり方がある。アトラスへの寄稿、収蔵品となる資料の提案、アドバイザー会への参加、そしてプロジェクトへの支援である。